Aquamarine
海の水、と人は名づけた。
ラテン語で「海の水」を意味する名を持つ青い石。
その澄んだ青のなかでも、ひときわ濃い青は
「サンタマリア」と呼ばれてきました。
色が、そのまま物語になる宝石です。
Why Aquamarine
アクアマリン(Aquamarine)という名は、
ラテン語の「aqua marina=海の水」に由来するとされています。
エメラルドと同じ「ベリル」という鉱物の仲間でありながら、
こちらは澄んだ青をまとう変種です。
古くは航海のお守りとして、いまは3月の誕生石として。
時代をこえて、海を思わせる青が愛されてきました。
海の水を
そのまま閉じ込めたような、
静かな青。
01 — History & Legend
アクアマリンは、古くから海と結びつけて語られてきた石です。
古代ローマでは、船乗りが航海の安全を願って身につけたと伝えられ、
海神ネプチューンの宝石とする言い伝えも残ります。
中世ヨーロッパでは、心を落ち着かせ、
身を守るお守りとしても語られてきました。
こうした言い伝えの多くは後世にまとめられたものとされますが、
「海」と「守り」のイメージは、いまもこの石に重なっています。
02 — Santa Maria Color
アクアマリンの青のなかでも、濃く澄んだ深い青は、
特別に「サンタマリア」と呼ばれてきました。
その名は、ブラジルのある鉱山に由来します。
Brazil — Minas Gerais
Santa Maria
ブラジル・ミナスジェライス州のサンタマリア・デ・イタビラ鉱山。 1950年代から、濃く彩度の高い青を世に送り出しました。 現在はほぼ掘り尽くされたとされています。
Africa — Mozambique ほか
Santa Maria Africana
1990年代、アフリカ(主にモザンビーク)でも 匹敵する深い青が見つかり、 「サンタマリア・アフリカーナ」と呼ばれるようになりました。
※ つまり「サンタマリア」は、いまでは特定の産地だけを指す言葉ではなく、
濃く澄んだ青という「色の呼び名」として使われる側面が強くなっています。
Japan — 2024
そして2024年、日本の鑑別でも
「サンタマリア・カラー」と記せるようになりました。
宝石鑑別団体協議会(AGL)は2024年3月、加盟する鑑別機関が、
濃色のアクアマリンについて鑑別書の備考欄に
「サンタマリア・カラー」と記載できる扱いを整えたとされています。
ルビーの「ピジョンブラッド」やサファイアの「ロイヤルブルー」と同じように、
色の呼び名が証明書の上で扱われるようになった、ひとつの節目といえます。
「サンタマリア・カラーと呼ばれることがあります」
AGLは、この呼び名に使われる地名は産地を示すものではないとしています。 ブラジル産・アフリカ産のいずれであっても、色の基準を満たせば呼ばれうる—— あくまで「色」に対する呼称、という整理です。
03 — Color & Grade
アクアマリンは、ごく淡い水色から、深い青までの幅を持ちます。
一般に、緑みや黄みの少ない、濃く澄んだ青ほど
珍重される傾向にあるとされています。
Deep Blue
Santa Maria Color濃く澄んだ深い青。緑みが少なく彩度が高いものは「サンタマリア・カラー」と呼ばれることがあります
Sky Blue
Aquamarine明るく澄んだ水色。海を思わせる清涼感のある、アクアマリンらしい色合いです
— 同じアクアマリンでも、青にはこれだけの幅があります —
Deep Blue
濃く澄んだ青。緑みが少なく、彩度が高いものは「サンタマリア・カラー」と呼ばれることがあります
Sky Blue
明るく親しみやすい水色。アクアマリンらしい清涼感のある色合いです
Greenish Blue
わずかに緑みを帯びた青。未加熱の石にも見られる自然な色みのひとつです
Note — 似て非なる青
「マシシ(Maxixe)」という、退色する青
かつてブラジルで、アクアマリンによく似た非常に濃い青のベリルが見つかりました。
「マシシ(マキシキシ/Maxixe)」と呼ばれるこの石は、
日光や熱によって青が褪せてしまうという、まったく別の性質を持っていました。
色を生むしくみそのものがアクアマリンとは異なり、専門の検査で見分けられます。
通常、アクアマリンとして扱われることはありませんが、
「濃い青ならすべて同じ」ではない——という、色の奥行きを示す存在です。
04 — Science
アクアマリンは、エメラルドと同じ「ベリル(緑柱石)」という鉱物の仲間です。
化学式は Be₃Al₂Si₆O₁₈。その結晶のなかにごく微量の鉄イオンが含まれることで、
あの青が生まれるとされています。
おもしろいのは、鉄の状態によって色が変わる点です。
鉄イオン(Fe²⁺)が青を、別の状態の鉄(Fe³⁺)が黄みをもたらすとされ、
両者の関わり合いから青が立ち上がると考えられています。
加熱という、ひとつの工夫
黄みのもとになる鉄の状態を、加熱によって変えることで、 より純粋な青に整える方法が知られています。 市場に流通するアクアマリンの多くにこうした加熱が施されているとされ、 その効果は永続的で、通常の使用で褪せることはないとされています。 加熱の有無は、見ただけでは分かりにくいのが一般的です。
物性データ
| 鉱物名 | ベリル(緑柱石) |
| 硬度 | 7.5 – 8(モース) |
| 屈折率 | 1.577 – 1.583 |
| 比重 | 約 2.72 |
| 結晶系 | 六方晶系 |
ベリル族の仲間たち
同じベリルには、クロムで緑になるエメラルド、 マンガンでピンクになるモルガナイトなどがあります。 どの元素が入り込むかで、色が決まります。
05 — Origins
アクアマリンは世界各地で産出しますが、
産地によって色みや個性に違いが見られるとされています。
Minas Gerais ほか
約200年にわたり世界の中心的な供給地とされてきた産地。 「サンタマリア」の名を生んだ地でもあります。 濃い青から明るい水色まで、幅広い色が産出します。
Mozambique — Alto Ligonha ほか
ブラジル産に匹敵する深い青を産出する産地。 「サンタマリア・アフリカーナ」と呼ばれる石の主な供給地として知られています。
Gilgit-Baltistan
標高数千メートルの高山地帯で採掘される産地。 透明感の高い、澄んだ青で評価されることがあります。
このほか、マダガスカル・ザンビア・ナイジェリア・米国コロラド州・ロシア(歴史的産地)などでも産出が知られています
— An Icon
ブラジルで見出された巨大な結晶から生まれた「ドン・ペドロ」は、
カットされたアクアマリンとして世界最大とされています。
ドイツの名工が約10か月をかけてオベリスク(尖塔)形に仕上げ、
現在はスミソニアン博物館で展示されています。
ひとつの石が、芸術作品にまで昇華した例として知られています。
10,363 ct
Dom Pedro Aquamarine
高さ約36cm・重さ約2kg
スミソニアン国立自然史博物館 蔵
06 — Identification
アクアマリンの鑑別では、おもに鉱物としての種類や、産地、
処理の有無などが調べられます。
信頼できる鑑別機関のレポートは、石の素性を知る手がかりになります。
GIA
Gemological Institute of America(米国)
国際的に広く知られる鑑別機関。 鉱物名や処理の有無を国際基準で証明します。 日本からも依頼しやすく、最初に挙がる選択肢のひとつとされています。
GRS
GemResearch Swisslab(スイス)
色石の評価に定評のあるスイスの専門機関。 独自の色グレード基準でも知られ、 色名を含めた評価が参照されることがあります。
CGL
中央宝石研究所(日本)
日本国内で広く利用される鑑別機関。 日本語での証明書発行に対応しており、 国内での購入・取引において確認しやすい点が心強いところです。
Topic — サンタマリア・カラーの記載
前述のとおり、日本では2024年から、加盟鑑別機関が 濃色のアクアマリンを「サンタマリア・カラー」として 鑑別書の備考欄に記載できる扱いが整えられたとされています。 購入を検討する際は、こうした記載の有無や内容も ひとつの参考になります。
Aquamarine — A Stone for You
アクアマリンは、
見る人を急かさない石です。
静かに、ただそこにある青。
その透明さが、
心を整えてくれることがあります。
色の名前が、産地の記憶を宿す石。
海の名を持つ石。
名前だけで、もう物語がある。
3月生まれでなくても、
惹かれるなら、それでいい。
※ 鑑別書は石の性質・産地・処理状態に関する専門機関の見解を示すものです。価値の保証を意味するものではなく、鑑別機関により判定方法・表記が異なる場合があります。購入の際は複数の情報を参照されることをお勧めします。