Padparadscha Sapphire

パパラチアサファイア — 蓮の花の色をまとう、サファイアの王

オレンジでもピンクでもない、 そのどちらでもある、ごく狭い色の領域。 古来スリランカの人々が水面に咲く蓮に重ねたその色は、 「サファイアの王」と呼ばれ、今も人々を惹きつけてやみません。

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パパラチアサファイア

蓮の名を持つ石

「パパラチア」という名は、スリランカで話されるシンハラ語、 またはサンスクリット語で「蓮の花の色」を意味する言葉に由来するとされています。 水面に咲く蓮の、オレンジともピンクともつかない繊細な色合いを、 古来の人々はこの石に重ね合わせました。

蓮の花のように、オレンジとピンクが
溶け合う、ただひとつの色。

世界三大希少石

パパラチアサファイアは、アレキサンドライト・パライバトルマリンと並んで 「世界三大希少石」の一つに数えられることがあるとされます。 色相の範囲が非常に狭いことから「幻のサファイア」とも呼ばれ、 その希少性と独特の色合いから「サファイアの王」という異名でも知られています。

紀元前〜

スリランカ(セイロン島)では古くからサファイアが産出されてきたとされ、宝石の島としての歴史を重ねてきました。

1900年代後半

オレンジ・ピンクの中間色をもつ原石がスリランカで見いだされ、「パパラチア」の名で知られるようになったとされます。サファイアの長い歴史の中では比較的新しい存在です。

1983年

GIAのR. Crowningshieldによる論文が、パパラチアの定義をめぐる議論に大きな影響を与えたとされ、以降「パステル調のピンクオレンジ」という現在に近い理解が広まっていきました。

2005年

LMHC(宝石学用語調和委員会)が、パパラチアを「産地を問わず、パステル調で淡い色味のピンクオレンジ〜オレンジピンク」とする標準的な定義を整理したとされます。

2018年

英国王室のユージェニー王女の婚約指輪にパパラチアサファイアが用いられたことが広く報じられ、世界的に注目が高まるきっかけになったとされます。

オレンジとピンクの、あわいの色

パパラチアの色は、オレンジとピンクの中間というごく狭い範囲に限られるとされます。 ピンクが強ければピンクサファイア、オレンジが強ければオレンジサファイアと呼ばれ、 その絶妙なバランスゆえに「幻のサファイア」とも称されます。 鑑別機関は、パステル調で低〜中程度の彩度を一つの目安とする傾向があります。

ピンキッシュオレンジ

Pinkish Orange

中核の色域

オレンジピンク

Orangy Pink

中核の色域

サーモン

Salmon

人気の表現

サンセット

Sunset

人気の表現

パステルピンクオレンジ

Pastel

ラボの目安

産地によって変わる、色の個性

伝統的な主要産地はスリランカですが、近年はマダガスカルなどアフリカ圏が 重要な供給源になってきているとされます。 産地によって色味や透明度、産出する石の大きさに個性があります。

伝統的主要産地

01

スリランカ

Ceylon, Sri Lanka

古来の産地 理想色とされる石 宝石の島

古くからサファイアを産出してきた伝統的な産地とされ、 「パパラチア」の名もこの島の言葉に由来するとされます。 理想的とされる繊細なピンクオレンジの石が見いだされることで知られ、 産地としての歴史と知名度を背景に高い評価を集めてきました。

近年の主要産地

02

マダガスカル

Madagascar

高い透明度 近年の主供給源 1990年代に本格採掘

1990年代に本格的な採掘が始まったとされる比較的新しい産地で、 近年は重要な供給源の一つになっているとされます。 透明度の高い石が産出される一方、色味がスリランカ産ほど濃くない 場合もあるとされ、加熱処理で色を整える石も見られます。

注目産地

03

タンザニア

Tunduru, Tanzania

小粒が多い 色幅が広い コレクター注目

東アフリカのタンザニアでもパパラチア色の石が見いだされるとされ、 産出する石は比較的小粒な傾向があるとされます。 淡いオレンジピンクからやや彩度のある色味まで幅があり、 個性のある一石を求めるコレクターに注目されています。

微量元素が織る
蓮の色

サファイアはルビーと同じコランダム(酸化アルミニウム、Al₂O₃)という鉱物です。 そのオレンジとピンクが溶け合う独特の色は、結晶に取り込まれた ごく微量の金属元素による「光のマジック」とされています。

一般に、ピンクの成分はクロム(Cr)、 オレンジ・黄の成分は鉄(Fe)やチタン、あるいは 結晶内の「カラーセンター」と呼ばれる構造に由来するとされます。 この両者が絶妙なバランスで重なったとき、 蓮の花のようなパパラチアの色が生まれると考えられています。

※ 発色メカニズムには諸説があり、研究が続けられています。
参考:GIA「Sapphire Quality Factors」ほか

発色に関わる主要元素

Cr
クロム(Chromium)
ピンク〜赤系の発色源とされる。コランダムに微量含まれることで、ルビーでは赤、淡く含まれるとピンクの色味をもたらすと考えられている。
Fe
鉄(Iron)
チタンとの組み合わせや結晶内の構造とともに、黄〜オレンジ系の色味に関わるとされる。クロムによるピンクと重なり、中間色を生むと考えられている。
CC
カラーセンター(Color Center)
結晶中の原子レベルの構造的な欠陥で、特定の波長を吸収して黄〜オレンジ味をもたらすとされる。これが不安定な場合、光や時間で色味が変化することがあるとされ、近年の「色安定性」の議論につながっている。
Al
アルミニウム(Aluminium)
コランダム(Al₂O₃)の主成分。サファイアの基本構造を形成し、上記の微量元素はこの結晶に入り込む形で発色に関わる。

鉱物データ

鉱物種:コランダム(Corundum)
化学式:Al₂O₃(酸化アルミニウム)
硬度:モース 9
屈折率:1.762〜1.770
比重:3.95〜4.05

処理と色の安定性

パパラチアサファイアにも、業界で広く行われている処理があります。 近年は「色の安定性」という新しい観点も注目されています。 購入時には、信頼できる鑑別書とともに処理の有無と内容を確認することをお勧めします。

Unheated — 非加熱(ノーヒート)について

パパラチアサファイアの多くは加熱処理によって色を整えているとされ、 加熱の痕跡が認められない「非加熱(ノーヒート)」の石はより希少とされています。 鑑別書には「No indication of heating(加熱の痕跡なし)」などと記載されることがあり、 この記載の有無が市場での一つの評価軸とされています。 ただし、非加熱であること自体が品質や美しさを保証するものではなく、 色味・透明度・色の安定性などを総合的に見ることが大切とされています。

加熱処理

Heat Treatment

業界標準

多くのパパラチアサファイアに施されているとされる、一般的な処理です。 比較的低い温度で加熱することで色や透明度を整えるとされ、 適切に開示される限り、業界で広く受け入れられている手法です。 マダガスカル産などでは、低温・短時間の加熱で色を整える例もあるとされます。

拡散処理など

Diffusion / Others

要確認

1990年代後半以降、ベリリウムなどを用いた拡散処理によって パパラチアに似た色を引き出す手法が知られるようになったとされます。 重要な点として、たとえ見た目がパパラチア色であっても、 ベリリウム拡散処理と判明した石は「パパラチア」とは呼ばず、 鑑別書に拡散処理として明記されるのが原則とされています。 検出が難しい場合もあるとされますが、現在は精密分析による検査法が整えられてきています。

※【色の安定性について】近年、一部のサファイア(特にマダガスカル産など)で、 光や時間の経過によって色味が変化する場合があることが報告されています。 GIAをはじめとする主要機関は「色安定性テスト」を取り入れる流れにあるとされ、 パパラチアの判定においても重要な観点になりつつあります。 鑑別書の発行年や検査内容を確認することが、安心につながります。

鑑別機関で判定が分かれる

パパラチアサファイアは、鑑別機関によって判定が分かれることがある宝石として知られています。 その背景には、色域に世界共通の唯一絶対の数値基準が存在しないことがあるとされます。 ルビーやブルーサファイアのように色相を比較的明確に分類できる石と異なり、 パパラチアはピンクとオレンジが溶け合う中間色を、色相・彩度・明度・バランスから 総合的に評価するため、機関ごとの考え方の差が表れやすいとされています。

Padparadscha

ピンクとオレンジが調和し、特有の色彩をもつと判断された場合、 「パパラチアサファイア」と記載されることがあります。 この記載は市場での評価において一つの指標とされています。

Pink Sapphire

ピンクの色味が強いと判断された場合、 同じ石でも「ピンクサファイア」と記載されることがあります。 機関による色域の捉え方の差が表れやすい境界です。

Orange Sapphire

オレンジの色味が強いと判断された場合は、 「オレンジサファイア」と記載されることがあります。 これは優劣ではなく、評価基準や色域の考え方の違いによるものとされます。

※ 上記の色は判定差を説明するためのイメージであり、実際の石の色を示すものではありません。 判定が分かれることは鑑別結果の優劣を意味するものではなく、評価基準の違いによるものとされています。 パパラチアの色の定義については、現在も研究や議論が続いているとされます。

主要鑑別機関

前の章で触れたとおり、パパラチアは機関によって判定が分かれることがあります。 鑑別では、色域が定義に合致するかの判断に加え、処理の有無・産地・色の安定性などが確認されます。 機関によって判定基準や表記が異なる場合があるため、発行機関の確認が大切です。

GIA

Gemological Institute of America(米国)

パパラチア判定 色安定性テスト 研究機関として著名

世界最大規模の宝石学機関。 一定の色域基準を満たすと判断した石に「padparadscha」の記載を行うとされます。 色の安定性に関する観察・研究でも知られ、 学術的な知見の発信でも国際的な存在感を持っています。

GRS

GemResearch Swisslab(スイス)

独自カラー表記 アジア市場実績 産地証明

独自のカラー表記でも知られる機関で、 特にアジア市場での認知度が高いとされます。 パパラチアの色域の捉え方は機関ごとに差があり、 GIAなどと判定が分かれる場合があることが議論されています。

AIGS

Asian Institute of Gemological Sciences(タイ)

カラーストーンに強い アジア初の宝石ラボ 1978年創設

1978年にバンコクで創設された、アジアで初めての宝石鑑別機関とされ、 宝石学校も併設しています。 カラーストーンの鑑別における専門性で世界的に知られ、 ルビー・サファイアの一大集積地であるタイの市場で実績を重ねてきました。

CGL

中央宝石研究所(日本)

日本最大手 処理判定 日本語証明書

日本国内で最も流通実績のある鑑別機関の一つ。 国内市場でCGLの鑑別書は広く認知されており、 サファイアの処理判定などにも対応しています。 日本語での証明書発行が可能で、国内での購入・取引で確認しやすい機関です。

※ 鑑別書は石の性質・産地・処理状態に関する専門機関の見解を示すものです。価値の保証を意味するものではなく、鑑別機関により判定方法・表記が異なる場合があります。購入の際は複数の情報を参照されることをお勧めします。

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