Sphene / Titanite
ふたつの名前を持つ、きらめきの石。
鉱物名はチタナイト、宝石名はスフェーン。
ダイヤモンドを上回るとされる分散で、
虹色の輝きをまとう石の物語をたどります。
Why Two Names
この石には、ふたつの名前があります。
鉱物学上の正式名称は「チタナイト」。
1982年、国際鉱物学連合(IMA)がこの名称を正式に採用したとされています。
一方、宝石として流通する際の名称は、現在も「スフェーン」が広く使われています。
くさびのような結晶の形にちなみ、ギリシャ語の「sphenos」が語源とされ、
和名は「楔石(くさびいし)」と呼ばれます。
鉱物学の世界と、宝石の世界。
ひとつの石が、ふたつの呼び名を生きています。
鉱物としてはチタナイト、
宝石としてはスフェーン。
ふたつの名前で、
今も呼ばれ続けています。
01 — History
物語の始まりは、18世紀末のヨーロッパ。
1787年、スイスの自然哲学者マーク・オーガスト・ピクテによって、
新種の鉱物として初めて認識されたと伝えられています。
1795年、ドイツの化学者マルティン・クラプロートが、
チタンを含む鉱物として記載・命名。
チタンにちなみ「チタナイト」と名づけられたとされています。
1801年には、フランスの鉱物学者ルネ・ジュスト・アユイが、
くさび形の結晶にちなんで「スフェーン」の名を提唱したと伝わります。
以来ふたつの名称が並び使われてきましたが、
1982年にIMAがチタナイトを正式な鉱物名と定めました。
それでも宝石業界では、スフェーンの名が今も親しまれています。
02 — Color
スフェーンの色は、グリーンからイエロー、ブラウン、オレンジまで幅があるとされています。
含まれる鉄の量によって色合いが変わるとされ、
鉄が少ないものは黄緑〜緑、多いものは褐色に近づく傾向があるとされています。
ひとつの結晶のなかに色の濃淡が帯状に見られることもあり、
見る方向によって色味が変化して見えることもあります(多色性)。
注意 — クロムスフェーン
クロムを含み濃いグリーンを示すものは「クロムスフェーン」と呼ばれることがあります。流通の場で「メキシカンエメラルド」などと呼ばれる例も知られていますが、エメラルドとは別の鉱物です。鑑別書での確認がすすめられます。
グリーン
鉄が少ないものに見られやすいとされる色合い
イエロー
希土類元素の影響が関わるとされています
ブラウン
鉄を多く含むものに見られやすいとされる色合い
オレンジ
加熱により生じることもあるとされています
03 — Fire & Durability
スフェーン最大の見どころは「分散」、すなわちファイアです。
光を虹色に分ける度合いを示すこの数値は、
ダイヤモンドより高いとされています。
さらに複屈折も非常に強いことで知られ、
ファセットの輪郭が二重に見える「ダブリング」が
肉眼でも観察されることがあります。
一方で硬度はそれほど高くなく、劈開(へきかい・特定方向に割れやすい性質)もあるため、
日常使いには配慮が必要とされる石です。
豆知識 — 時を刻む石
スフェーン(チタナイト)はウランや鉛を取り込みやすい性質があるとされ、地質学では岩石の年代を測定する研究にも利用されています。宝石としてだけでなく、地球の歴史を読み解く鉱物としても知られています。
04 — Origins
宝石質の透明な結晶は多くないとされ、
産地によって色味の傾向にも違いがあるとされています。
複数の産地
現在の市場で多く見られる産地のひとつとされ、グリーン系の結晶が知られています。
ウラル山脈
クロムを含む濃いグリーンの結晶が知られる産地とされています。
スカルドゥほか
比較的大きな結晶が見つかることがあるとされ、強いファイアが評価される産地です。
ミナスジェライス州カペリーニャ
双晶(ふたごの結晶)が見られることで知られる産地とされています。
このほか、スリランカ・ミャンマー・メキシコなどでも産出が報告されています
05 — Identification
スフェーンは、グロッシュラーガーネットやジルコンなど、
他の石と見た目が似ることがあるとされています。
鑑別書では鉱物名「チタナイト(Titanite)」として記載されることが一般的とされ、
購入の際は専門機関の鑑別書を確認することがすすめられます。
GIA
Gemological Institute of America(米国)
世界最大の宝石学機関。宝石百科にチタナイト(スフェーン)の項を持ち、研究データを公開しています。鑑別書では「Titanite (Sphene)」と記載されます。
GRS
GemResearch Swisslab(スイス)
色石の鑑別に広く対応するスイスの機関。スフェーンへの対応範囲は案件により異なるため、最新情報は直接確認を推奨します。
CGL
中央宝石研究所(日本)
日本国内で最も流通実績のある鑑別機関。鉱物名チタナイトとしての鑑別に対応し、日本語の鑑別書を発行しています。
Sphene — A Stone for You
ひとつの石に、
ふたつの名前。
鉱物としてはチタナイト、
宝石としてはスフェーン。
ダイヤモンドを上回るとされるきらめきに惹かれるのか、
移ろう緑や橙の色合いに惹かれるのか、
ふたつの名前を持つ物語そのものに惹かれるのか。
惹かれる理由は、
人それぞれでいい。
それが、あなたにとっての
いちばんのスフェーンかもしれません。
加熱処理・産地分析の対応範囲は各鑑別機関により異なるため、直接お問い合わせいただくことをお勧めします。
※ 鑑別書は石の性質・産地・処理状態に関する専門機関の見解を示すものです。価値の保証を意味するものではなく、鑑別機関により判定方法・表記が異なる場合があります。購入の際は複数の情報を参照されることをお勧めします。