鴨(かも)の羽に宿る、海と森の青緑
青でもなく、緑でもない。鉄とチタンというふたつの元素が、ひとつの結晶のなかで織りなす中間色——。かつてロイヤルブルーの陰で評価されにくかったこの色は、個性を求める現代の価値観によって再発見された。時代が選んだサファイアの物語である。
01 — History
「ティール(teal)」という色名は、ユーラシアコガモ(学名 Anas crecca)という水鳥に由来するとされる。このカモのオスは、頭部から翼にかけて金属光沢を帯びた鮮やかな青緑色の縞模様を持つ。英語の色名としての初出は1917年とされ、宝石の名としてはさらに新しい。古代の王侯に愛された歴史を持たない代わりに、ティールサファイヤには「現代が見出した」という、他の宝石にはない物語がある。
「かつて主役になれなかった青緑が、
個性を求める時代の価値観によって
再発見された——。」
Mineral Data
鉱物種:コランダム(Corundum)
化学式:Al₂O₃(酸化アルミニウム)
結晶系:六方晶系(ろっぽうしょうけい)(三方晶)
モース硬度:9
色:ブルーグリーン〜グリーンブルー
What is Teal Sapphire?
コランダムのうち、赤はルビー、それ以外の色はサファイアと分類される。「ティールサファイヤ」は青緑色を示すサファイアに対して市場で広く用いられる色調表現であり、正式な宝石学上の分類名ではない。鑑別書では「グリーンブルー」「ブルーグリーン」等と表記される。
英語の色名として「teal」が初めて記録されたとされる。ユーラシアコガモの頭部の青緑色がその由来。1930年刊行の色彩辞典『A Dictionary of Color』(Maerz & Paul)にも収載された。
サファイア市場ではロイヤルブルーやコーンフラワーブルーが理想とされ、青と緑の中間色は長く評価されにくい時代が続いたとされる。
米国モンタナ産サファイアの人気上昇とSNSの広がりとともに、青緑系サファイアへの注目が高まる。海外では婚約指輪のカラーストーンとして人気を集めるようになったとされる。
「人と同じではない色を選びたい」という価値観の変化を背景に、ティールサファイヤは時代によって価値が見直された宝石として、世界の市場で存在感を高めている。
02 — Color & Grade
ティールサファイヤの色は、青と緑が流動的に混ざり合うことで生まれる。そのバランスは結晶に含まれる鉄とチタンの比率によって決まり、石ごとに異なる。深い青に寄るもの、森のような緑に寄るもの、黄みを帯びるもの——同じ色はふたつとないとされる。
Color Spectrum — ティールサファイヤの色の幅
深い青寄り
Deep Blue Teal
青優勢
ティール
Teal
バランス型
青緑ミックス
Blue-Green Mix
緑寄り参考 — Parti / Bicolor
バイカラー系
Parti-colored
色が分かれる青と緑が明瞭に分かれて見えるタイプ。ティールサファイヤとは重複して呼ばれる場合もある。
画像はイメージです。評価は鑑別機関・市場により異なります。
光がつくる、ふたつの表情
ティールサファイヤは光源によって青と緑のバランスが変わって見えることがあるとされる。昼の自然光と夜の照明とで異なる表情を見せる点が、この石の魅力のひとつに数えられる。
加熱と非加熱、それぞれの魅力
過度な暗みを取り除き本来の青緑を引き出した加熱の石と、掘り出されたままの色を保つ非加熱の石。ティールサファイヤには双方が流通しており、それぞれに異なる魅力があるとされる。加熱の有無は鑑別機関の検査で確認できる。
03 — Origins
ティールサファイヤの色合いは、産地の地質に大きく左右されるとされる。鉄分の豊富な玄武岩起源の大地は深く濃い青緑を、鉄分の少ない変成岩起源の大地は明るく澄んだ青緑を育む。
01
オーストラリア
Queensland / New South Wales
鉄分の豊富なアルカリ玄武岩起源の大地から、濃く深いティールサファイヤを産出する。産出量は世界有数とされ、ティール市場の基盤を支える産地。暗みを取り除く加熱が行われることが多いとされる。
02
モンタナ
Rock Creek, USA
「ジェムマウンテン」と呼ばれるロッククリークを擁する米国の産地。明るくクリアなミントティール〜ブルーグリーンを産出し、非加熱のまま流通する石が多いとされる。米国でのティール人気を牽引した産地。
03
スリランカ
Ratnapura, Ceylon
先カンブリア時代の変成岩を母岩とする伝統産地。鉄含有量が比較的少ないため、透明度の高い瑞々しいライトティールを産出するとされる。
04
マダガスカル
Ilakaka
2000年代以降に急速に存在感を高めた産地。スリランカ産に近い高い透明度と、鮮やかな青緑を両立する石を産出するとされる。
04 — Science
純粋なコランダムは無色透明である。ティールサファイヤの青緑は、ひとつの結晶のなかでふたつの発色が同時に起きることで生まれるとされる。青を生むのは鉄とチタンのペア、緑〜黄を生むのは鉄単独——このふたつの透過光が混ざり合い、人の眼に「ティール」として届く。
隣り合うアルミニウムのサイトに入った鉄(Fe²⁺)とチタン(Ti⁴⁺)の間で、光のエネルギーを受けて電子が移動する「原子価間電荷移動(IVCT)=隣り合う2つの元素の間で電子が飛び移る現象」が起こる。約580nm付近の光が吸収され、青い光が透過する。
結晶内に豊富に存在する鉄(Fe³⁺)が、青〜紫領域の光を吸収し、イエロー〜グリーン系の透過光を残す。鉄分の多い玄武岩起源の石ほど、この成分が強く現れるとされる。
青の透過光と緑〜黄の透過光が混ざり合い、眼には青緑——ティールとして知覚される。鉄とチタンの比率は石ごとに異なるため、ひとつとして同じ色は生まれないとされる。
存在しない緑がある
GIAの資料では、彩度の高い純粋なエメラルドグリーンを示すコランダムは自然界には存在しないとされている。コランダムが見せる緑は、オリーブやティールといった、青や黄を帯びた繊細な緑なのである。
主要元素と鉱物データ
鉱物種:コランダム(Corundum)
化学式:Al₂O₃
硬度:モース 9
結晶系:六方晶系(三方晶)
主な発色因:Fe²⁺-Ti⁴⁺(青)/Fe³⁺(緑〜黄)
05 — Teal & Parti
青緑系のサファイアには、「ティール」と「パーティカラー」というふたつの呼び名がある。色が流動的に混ざり合うものをティール、青・黄・緑などが明瞭な帯や斑模様として分かれるものをパーティカラーと呼ぶことが多いが、両者の境界に明確な国際基準は存在せず、重複して扱われる場合もある。
ティールサファイヤ
Teal Sapphire
青と緑が流動的に混ざり合い、ひとつのなめらかな青緑に見えるタイプ。市場で生まれ、消費者に育てられた色の呼び名であり、正式な宝石学分類ではない。鑑別書では「グリーンブルー」等と表記される。
パーティカラードサファイヤ
Parti-colored Sapphire
青・黄・緑などが明瞭な色帯(ゾーニング)や斑模様として分かれて見えるタイプ。結晶の成長中に周囲の化学環境が変化し、異なる元素が層ごとに固定されたことで生まれるとされる。鑑別機関でも「parti-colored」の記載が用いられる。
市場では「Teal Parti Sapphire」のように両者を重ねた呼び名で流通することもあります。人間が引いた分類に収まりきらない、地球が生んだグラデーション——その曖昧さもまた、この石の個性のひとつといえるかもしれません。
06 — Certification
ティールサファイヤはサファイア(コランダム)として鑑別され、加熱の有無の検査や産地の分析に対応する機関があります。「ティール」という名称は鑑別書には記載されず、色の表記は「グリーンブルー」「ブルーグリーン」等となります。
GIA
Gemological Institute of America(米国)
サファイアの発色メカニズムや産地研究をリードしてきた世界最大の宝石学機関。天然性や加熱の有無を記載する鑑別書を発行し、コランダムの産地分析にも対応するとされる。詳細な対応範囲は直接お問い合わせください。
GRS
GemResearch Swisslab(スイス)
コランダムの鑑別に高い専門性を持つことで知られる国際機関。サファイアの産地分析や処理判定に対応し、アジア市場やオークション市場での実績が豊富とされる。
CGL
中央宝石研究所(日本)
日本国内最大シェアを誇る鑑別機関(宝石鑑別団体協議会AGL加盟)。コランダムの加熱履歴の検査に対応し、ブルーサファイア等では分析報告書による産地の分析も行われている。国内市場で最も認知されている機関の一つ。
鑑別書の正式石名は「サファイア」または「コランダム」と記載されます。「ティール」は市場で用いられる色調表現であり、鑑別書上の色表記は「グリーンブルー」「ブルーグリーン」等となります。
日本国内の規定では、一般的な鑑別書に産地は記載されず、産地は別途「分析報告書」で示される場合があります。産地の分析は科学的な推定であり、対応範囲は各機関により異なります。
※ 鑑別書・分析報告書は石の性質・処理状態等に関する専門機関の見解を示すものです。価値の保証を意味するものではありません。購入の際は複数の情報を参照されることをお勧めします。