44億年前の記憶を閉じ込めた結晶
地球誕生からわずか1億年あまり後、まだマグマが地表を支配していた時代に結晶化したとされる鉱物がある。岩石のほとんどが長い地球の歴史のなかで姿を変えるなか、ジルコンだけはその記憶を閉じ込めたまま現在まで生き残ってきた。褐色の石が熱で青へと変わり、宝石として光を宿す——そんな変容の物語も持つ宝石である。
01 — History
ジルコンという名は、ペルシャ語で「黄金色」を意味する「zargon」に由来するとされる。古代より赤〜橙色の宝石は「ヒヤシンス(Hyacinth / Jacinth)」と呼ばれ、新約聖書のヨハネの黙示録にも登場する古い宝石名として知られる。現在この名称は歴史的表現とされている。
「ヒヤシンスと呼ばれた古代の赤、
マタラダイヤモンドと称された無色——
ジルコンはつねに別の名で語られてきた。」
1920年代、カンボジア・ラタナキリ州の褐色ジルコンを加熱すると鮮やかな青が生まれることが広く知られ、アールデコ期のジュエリーに多用されるようになったとされる。その輝きと色の鮮やかさが支持を集めた。
Zircon vs CZ
ジルコン(ZrSiO₄)は完全な天然鉱物である。キュービックジルコニア(CZ・ZrO₂)は1976年に旧ソ連で開発された人工合成品。名称が似ているため現在も混同されることがあるが、化学的にも光学的にも別の物質とされる。GIA公式でも明確に区別されている。
Mineral Data
化学式:ZrSiO₄(ジルコニウム珪酸塩)
結晶系:正方晶系(せいほうしょうけい)
モース硬度:6.5(ロータイプ)〜7.5(ハイタイプ)
屈折率:1.92〜1.99(ハイタイプ)
複屈折:0.059
分散:0.039
比重:4.6〜4.7
02 — Color
ジルコンはブルー・レッド・オレンジ・イエロー・グリーン・ブラウン・無色など幅広い色を持つ。市場で最も人気が高いのはブルーで、そのほぼすべてが加熱処理によって生まれるとされる。
ほぼすべてが加熱処理由来とされる。褐色〜赤褐色の原石を900〜1,000℃の還元雰囲気で加熱することでブルーを引き出す(GIA Gems & Gemology 2016)。カンボジア・ラタナキリ産が主要産地として知られる。長波UV照射で変色することがあるため取り扱いに注意が必要とされる。
内包する放射性元素(ウランやトリウム)が長い年月をかけて結晶構造に影響を与えた「ロータイプ(メタミクト化)」に多い色とされる。光学特性がハイタイプより低い場合がある。独特の色調を持つ。
スリランカ・マタラ地域産の無色ジルコンは、かつて「マタラダイヤモンド」としてダイヤモンドの代用品に流通した。高い分散値(ファイア)を持ち、カット面から虹色の輝きを放つ。
赤〜橙系の宝石を指す名称として「ヒヤシンス(Jacinth)」が用いられてきた歴史がある。新約聖書・ヨハネの黙示録にも登場する古い宝石名。高い屈折率と分散により輝きが強い。
03 — Origins
ジルコンは世界各地で産出する鉱物だが、宝飾品グレードのブルージルコンはカンボジアが主要産地として知られる。スリランカは古くから多彩な色を産出し、「マタラダイヤモンド」の産地としても歴史に名を刻む。
ブルージルコンの主要産地として世界的に知られる。「ラタナキリブルー」は業界通称として通用する。玄武岩質火山活動との関連が指摘されており、砂利層・沖積層からの採取が多いとされる。
古くから多様な色のジルコンを産出する。マタラ地域の無色ジルコンは「マタラダイヤモンド」として知られ、ダイヤモンドの代用品として流通した歴史を持つ。
ミャンマー・ベトナム・タイなど東南アジア各地でも産出する。なお地球最古級のジルコン結晶は西オーストラリア・ジャックヒルズで発見されているが、こちらは宝石用途ではなく地球科学研究の対象とされる。
04 — Science
ジルコンは強い複屈折(0.059)を持ち、ルーペでファセットエッジが二重に見える「ダブリング」が現れる。これはジルコン鑑別の特徴的な指標のひとつとされる。分散値(0.039)も高く、カット面から虹色のファイアが散る。タイプ分類によって硬度や屈折率が異なり、加熱によって色が変化する点も特徴的な石である。
複屈折0.059の強さにより、ルーペでファセットエッジが二重に見える。天然カラーストーンのなかでも特に強い複屈折を持つ宝石のひとつとされる。
分散値0.039と高く、カット面から虹色の輝きが生まれる。無色ジルコンが「マタラダイヤモンド」としてダイヤモンド代用品に流通したのも、この輝きによるとされる。
ジルコンはハイタイプ・インターミディエイトタイプ・ロータイプ(メタミクト)に分類される。内包する放射性元素が長い年月をかけて結晶構造に影響を与えたものをロータイプと呼び、硬度が6.5まで低下するとされる。グリーン系に多い。
市場のブルージルコンはほぼすべてが加熱処理由来とされる。褐色〜赤褐色の原石を約900〜1,000℃の還元雰囲気で加熱することで鮮やかな青が引き出される(GIA Gems & Gemology 2016)。
44億年の記録媒体
西オーストラリア・ジャックヒルズで発見されたジルコン結晶は、約44億年前のものとされている(Nature Geoscience 2014・ウィスコンシン大学Valley教授)。地球誕生(約45.4億年前)から約1.5億年後に結晶化したと推定され、地球上で確認されている最古級の鉱物のひとつとされる。
鉱物種:ジルコン(Zircon)
化学式:ZrSiO₄
硬度:モース 6.5〜7.5
屈折率:1.92〜1.99(ハイタイプ)
複屈折:0.059
分散:0.039
比重:4.6〜4.7
取り扱い上の注意
ファセットエッジが欠けやすい性質(ペーパーウェア=業界でこう呼ばれる摩耗現象)があるとされる。長波UV(LWUV)照射でブルーが変色する場合がある(可逆的。白熱灯照射で回復するとされる)。超音波洗浄や急激な温度変化も避けることが推奨される。
05 — Birthstone
ジルコンは日本・米国ともに12月の誕生石として認定されています。日本では2021年12月、全国宝石卸商協同組合・JJAが63年ぶりに誕生石を改定し、タンザナイト・トルコ石などとともに12月の石に追加されました。
United States
Jewelers of America(JA)・AGTA が認定
タンザナイト・ターコイズとともに12月の誕生石として認定。
Japan — 2021
全国宝石卸商協同組合・JJAが認定
1958年の制定以来63年ぶりの大改定(2021年12月20日)。全29石に刷新され、ジルコンが12月の誕生石として加わった。
12月の誕生石
米国・日本ともに認定
USA — JA / AGTA
12月
Japan — 全国宝石卸商協同組合
2021
63年ぶりの改定
06 — Certification
ジルコンの鑑別書は、石の天然性・加熱処理の有無・タイプを確認するうえで重要です。CZ(キュービックジルコニア)など類似石との混同リスクがある石でもあるため、専門機関による確認を推奨します。
GIA
Gemological Institute of America(米国)
世界最大の宝石学機関。ジルコンとCZの識別・加熱処理の有無・タイプ分類に関する研究実績を持つ。ブルージルコンの加熱処理に関する論文(Gems & Gemology 2016)も発表している。天然性・処理の有無を証明する鑑別書を発行。
GRS
GemResearch Swisslab(スイス)
処理鑑別や産地分析を行うことで知られる国際機関。アジア市場での実績が豊富。対応範囲は案件により異なるため、直接お問い合わせいただくことをお勧めします。
CGL
中央宝石研究所(日本)
日本国内最大シェアを誇る鑑別機関(宝石鑑別団体協議会AGL加盟)。国内市場で最も認知されている機関のひとつ。ジルコンの天然性・処理状態の鑑別に対応している。
鑑別書の石名は「ジルコン」と記載されます。加熱処理の有無は備考欄や処理欄に記載されることがあり、表記は機関によって異なります。
産地分析・処理証明の対応範囲は各機関により異なるため、直接お問い合わせいただくことをお勧めします。
※ 鑑別書は石の性質・産地・処理状態に関する専門機関の見解を示すものです。価値の保証を意味するものではありません。